秘密の地図を描こう
38
何か、最近、自分の周囲がおかしい。
「……レイやルナがどうこうって言うわけじゃないんだけど、な」
むしろ、彼らの方もそれに不審を抱いているようだ。
「何かやったか?」
自分で気づかないところで、と呟く。しかし、いくら考えても思い当たるものはないのだ。
「それとも、俺自身が問題じゃないのかな」
もっと別の何かだろうか、とシンは呟く。
そのときだ。
「そう言うことらしい」
いきなりシンの頭の上でレイの声がする。
「知人を通じて確認してきた。お前は対象から外れたから教えてもかまわないそうだ」
よかったな、と言われても素直に喜べない。
「……なんだよ、それって」
さっさと言え、と彼をにらみつけてしまう。
「セイランとのつながりがあるかどうか、だ」
「へっ?」
予想外のセリフに思わず声が漏れてしまった。
「最近、オーブからの移住者の犯罪が増えている。彼らの関連性を調べてみたら、セイラン家と関わりのある人間ばかりだった。
だから、内密に調べていたのだとか。もっとも、ほとんどの人々は気づいてないらしい。
「さすがはアカデミーの訓練生、とほめられていたそうだぞ」
知り合い曰く、と彼は笑った。
「……でも、何で……」
「そこまでは俺も教えられていない。推測はできるがな」
シンの疑問にレイはこう言い返してくる。
「それでいい。教えてくれ」
こう言えば、彼は小さくうなずいて見せた。
「セイランと言えば太平洋連合よりだと聞いている」
「あぁ……あの後も、一番先に地球軍を招き入れていたしな」
だから、コーディネイターが迫害されたのだ。現在、プラントにいるオーブからの移住者はそのときに追い出された者達がほとんどだと言っていい。
その中に、セイランから何かを命じられた者達がいたとしてもおかしくはないのか。
「何でも、オーブ出身者が持っている特許はオーブ国家に属するものだと言っているらしいしな、あそこは」
だから、それを使ってプラントで開発をするな、と言っているらしい。
「何だよ、それ……信じられねぇ」
プラントで就職をするなと言っているのか、とシンは思わず言ってしまう。
「セイラン――オーブとしてはそうらしい。もっとも、アスハががんばっているようだがな」
あそこは前の戦争の時に有能な人材を多く失っているから、いつまで保つかはわからないが……とレイは言った。
「……アスハなんて……」
いなくなってもかまわないのに、とシンは呟く。
フリーダムのパイロットとアスハ。
どちらがより憎いと言えばアスハの方に決まっている。
もし、アスハがもっと早く退避勧告をしていれば、自分達はあのとき、あそこにいなかった。そうすればフリーダムが来なくても無事に避難できたはずだ。
だから、すべての現況はアスハだと、シンは思う。
確かに、その決定をしたのはウズミで、カガリではないかもしれない。それでも、アスハである以上、同じだ。
「英雄なんかじゃないだろう」
あいつなんて、と呟く。
百歩譲って、フリーダムのパイロットなら《英雄》と認めてもいいかもしれない。だが、彼女は違う。彼女は周りの者達に持ち上げられなければ、同じ土俵にすらたてなかったのではないか、とシンは考えている。
「まぁ、どうでもいいけどな」
自分が彼女と関わりを持つはずがない。
「とりあえず、あのうっとうしい気配から解放されるだけでもいいや」
集中できなくなりそうだったし、とため息をつく。
「そうか」
ならばよかったな、とレイは笑う。
そのまま、彼は自分の机へと向かった。そのまま、すぐにパソコンを起動する。
「明日の予習でもしておけ」
突き放されたように感じる言葉も、彼の性格のせいだ。
「そうだな」
確かにそれがいい、とシンは言うと体の向きを変える。そして、自分に与えられているパソコンを立ち上げた。
「だから、お前は危険なんだよ」
レイが何かを呟く。
「……何か言ったか?」
だが、彼からの返答はない。気のせいだったろうか。そう思いながら、シンは自分の作業を開始した。